社会保険労務士(社労士)業務の実務知識

社会保険労務士(社労士)業務の実務知識です。
随時追加していきます。

割増賃金の基礎単価

月給制の場合の割増賃金の基礎単価は次のとおりです。
割増賃金の基礎単価
=給与/1ヶ月の所定労働時間×割増率
※給与には諸手当も含まれますが次のものは除外して良いことになっています。
  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金(結婚手当、慶弔金など)
  • 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
上記以外のものは含まれますので、逆に次のものは含まれます。
  • 皆勤手当
  • 食事手当
  • 資格手当
  • 運転手当
  • 役職手当など
※1ヶ月の所定労働時間
会社が独自に就業規則等で定めている労働時間です。
具体的には、(月全体の日数−会社が定めている休日)×1日の労働時間となります。
1ヶ月の所定労働時間数は、通常、毎月異なります。
したがって、実際は、1年間を平均した1ヶ月の所定労働時間数を用います。
また、会社が、就業規則などで、法定労働時間(8時間)に満たない時間を設定している(7時間など)場合には、その所定労働時間を超えても、法定労働時間を超えるまでは割増賃金を支払う義務は発生しません。

最低賃金

最低賃金とは、憲法第25条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」で定められた生存権を現実化させるために、「最低賃金法」という法律で労働者を保護することを目的に定められた賃金のことです。
仮に労使双方の合意のもとに最低賃金を下回る賃金額で労働契約を結んだとしても、その賃金額は無効となり、最低賃金で契約をしたものとみなされます。
最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の二種類があります。

地域別最低賃金とは

産業や職種に係わりなく、すべての労働者(パート、アルバイトを含む。また、都道府県労働基準局長の許可を受けることを条件に、最低賃金の適用が除外される場合もあり。)に適用される最低賃金で、都道府県毎に別々に設定されます。

特定(産業別)最低賃金とは

特定の産業について設定される最低賃金のことで、その産業の労働者または使用者からの申出を契機としてその必要性を審議し、その産業の基幹的労働者を対象として都道府県毎に別々に設定されます。
従って、各都道府県で様々な産業でそれぞれ最低賃金が設定されることになり、その金額もその都道府県の地域別最低賃金よりも高く設定されています。
また、最低賃金の対象となる賃金は、通常の労働時間や労働日に対応する賃金に限られ、具体的には実際に支払われる賃金から以下の賃金を控除した賃金となります。
  • 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
  • 1ヵ月を超える期間毎に支払われる賃金(賞与など)
  • 時間外・休日労働に対する賃金、深夜割増賃金
  • 臨時に支払われる賃金(私傷病手当など)
このように毎年上がる最低賃金ですが、それでもまだ働いて得る収入が生活保護の水準を下回り、国民の勤労意欲に悪影響を及ぼしているケースも見受けられ、ワーキングプアという呼称で大きな社会問題となっています。
最低賃金は、毎年秋(10月)に改定されます。

併給調整の原則と例外

年金支給の原則は、「1人1年金の原則」です。
つまり、1人の人が2つ以上の年金の受給権を取得した場合は、いったんすべての年金の支給が停止されて、自分がもらいたい年金 の支給停止を解除するということになります。
つまり複数の受給権を持っていても、実際にもらえる年金は1つだけということになります。
しかしながら、この「1人1年金の原則」には例外が2つあります。
まず1つ目の例外は、これは、当たり前ですが、2階建て年金という制度の仕組みからくるもので「同一の支給事由による併給」です。
したがって、次の3つの年金は併給されます。
  • 老齢基礎年金と老齢厚生年金
  • 障害基礎年金と障害厚生年金
  • 遺族基礎年金と遺族厚生年金
2つめの例外は、「異なる支給事由の年金の併給」で、次の3つの年金も併給されます。
  • 老齢基礎年金と遺族厚生年金
  • 障害基礎年金と老齢厚生年金
  • 障害基礎年金と遺族厚生年金
つまり、老齢基礎の上には老齢厚生・遺族厚生が、障害基礎の上にはすべてが、遺族基礎の上には遺族厚生だけが載ることができます。
ただし、これらの併給が認められるのは、65歳以上の受給権者に限られますので、注意が必要です。

CSR

CSRとは企業の社会的責任のことで、企業が利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して適切な意思決定をすることを指します。

ノイズ研究所事件(判例)

降格・減給を伴う成果給与制度への変更を認めた平成18年6月の重要な東京高裁の判決です。
主な内容は下記のとおりです。
判決によると、同社は 2001年4月、成果主義の給与制度に変更。
経過措置として変更1年目は減給分の全額、2年目は 50 %を「調整手当」として支給した。減給された社員が「減額給与の支払」を求めて 、02 年1月に提訴した。
最高裁の判例に、「労働条件の一方的な不利益変更は原則許されないが、労働者の不利益を考慮しても変更に必要性が認められ、内容が合理的であれば労働者は変更を拒めない」という判断がある。
04年2月の一審判決は、「不利益が大きく、給与制度変更は法的な要件を満たさない」として同社に減給分支払いなどを命じた。
控訴審判決では、「労働生産性を高めて競争力を強化する高度の必要性があった。給与制度変更は重要な職務に、より有能な人材を投入して処遇するもの」と判断。
その上で
  • (1) 給与原資総額は減らさず、配分の仕方を改める
  • (2) 自己研鑚による昇格・昇給の機会平等が保障されている
  • (3) 最低限合理的な人事評価制度がある
会社側が事前に制度の周知に努めたことや一定の経過措置があったことなども考慮し、原告勝訴の一審横浜地裁川崎支部判決を取り消し、請求を棄却した。

フジ興産事件

最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決で就業規則の効力における重要判例です。
概要は次のとおりです。
就業規則に基づき労働者を懲戒解雇したが、懲戒事由に該当するとされた。
労働者の行為の時点では就業規則は周知されていなかった事例で、就業規則が拘束力を生ずるためには、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとし、懲戒解雇を有効とした原審を破棄し、差し戻した。

特養と老健の違い

老健とは「介護老人保健施設」の略称のことです。
治療や入院の必要が無く、マヒやけがの症状が安定した高齢者を原則3ヶ月を限度に受け入れ、自宅での生活を可能にするためのリハビリテーションを行う施設です。
特別養護老人ホームとの大きな違いは、帰宅を目標にしているという点です。

特定業務従事者の健康診断(労働安全衛生規則第45条)

深夜業務などの特定業務に従事する労働者に対しては、当該業務への配置替えの際及び6ヶ月以内ごとに1回、定期的に、定期健康診断と同じ項目の健康診断を行わなければなりません。
ただし、胸部エックス線検査については、1年以内ごとに1回、定期的に行えば良いことになっています。
なお、特定業務としては、下記のとおりです。
特定業務一覧表(労働安産衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務)
  • @多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
  • A多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
  • Bラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
  • C土石、獣毛等のじんあいまたは粉末を著しく飛散する場所における業務
  • D異常気圧下における業務
  • Eさく岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
  • F重量物の取り扱い等重激な業務
  • Gボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  • H坑内における業務
  • I深夜業を含む業務
  • J水銀、砒素、黄リン、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、苛性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物質を取り扱う業務
  • K鉛、水銀、クロム、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これらに準ずる有害物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務
  • L病原体によって汚染のおそれが著しい業務
  • Mその他厚生労働大臣が定める業務

短期要件と長期要件

遺族厚生年金の支給要件は、短期要件と長期要件とに分けられます。
前者のイメージは、厚生年金に加入して間もない方の死亡、後者はその逆に年金をもらえるくらい長く厚生年金に加入していた方の死亡です。
短期要件か長期要件かによって、年金額の計算は異なるものとなります。
【短期要件】
  • 厚生年金の被保険者が死亡した時(現役)
  • 厚生年金の被保険者であった者が、被保険者の資格喪失後に被保険者であった間に初診日がある傷病により、その初診日から起算して5年を経過する日前に死亡した時
  • 障害等級1級または2級の障害厚生年金の受給権者が死亡したとき
【長期要件】
  • 老齢厚生年金の受給権者または、受給資格期間を満たしている者が死亡した時
※老齢厚生年金の受給資格があるということは、イコール老齢基礎年金の受給要件を満たしているということになりますので、保険料納付済期間と合算対象期間を合わせて原則25年以上(短縮特例あり)あるということになります。

老人福祉法

1963年に老人(65歳以上)の福祉増進とその社会参加を促進することを目的として制定された法律です。
老人の自立と社会参加を趣旨として,老人の努力とともに,老人の福祉と社会参加のための国,地方公共団体等の責務を規定するとともに,老人福祉施設の監督・助成,ホームヘルパーの派遣など,老人福祉の措置に関する具体的な施策を規定しています。

休職制度とは

休職制度(私傷病休職)とは、労働契約の義務である労務の提供を労働者が原因で履行できない場合に、本来は解雇となるべきところを一定期間猶予する、福利厚生的な措置の一つです。
一定期間をもって回復の可能性がある場合には休職とし、可能性のないと会社が判断した場合は解雇となります。
そしてこの休職制度を定めるか定めないかは任意であり、この休職制度を設けるかどうか、休職制度の対象者が正社員だけなのか、休職期間はどれだけなのかは、すべて会社の判断で決定されることになります。
これら休職制度に関する規定は、就業規則に整備しておく必要があると言えます。

改善基準告示とは

「改善基準告示」とは自動車運転者の労働時間等の労働条件の改善をするために労働大臣が1989年2月に告示したものの略称です。
これまで2回改正されてきましたが97年1月にさらに一部改正され、現行基準は97年4月1日から適用されています。
改善基準告示は交通安全を確保するために運転者の「拘束時間」「休息期間」「運転時間」「時間外や休日労働」などを規制しているもので、トラック・バス・タクシーの業種毎に基準が定められています。
法律のように罰則はありませんが、事業者は遵守が求められ、違反していれば、労働基準監督署から是正が指導されます。
2002年から、この基準の労働時間に関する部分が国土交通省告示ともなり、違反事業者は行政処分の対象になります。

特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の違い

労働者派遣事業には、「特定労働者派遣事業」と「一般労働者派遣事業」があります。
この「特定労働者派遣事業」と「一般労働者派遣事業」の違いは次のとおりです。
まず特定労働者派遣事業とは、常用雇用の労働者のみを派遣対象者とする場合のみの事業を言います。
つまり、1人でも常用雇用労働者以外の者が在籍していれば、一般労働者派遣事業となるからです。
そして、「特定労働者派遣事業」の場合は、厚生労働大臣への届出で良いということになっています。
なぜなら、特定労働者派遣事業(=常用雇用労働者)の場合は、派遣元に常用雇用されていますので、生活が安定しているとみなされるからです。
一方、一般労働者派遣事業ですが、こちらは、常用雇用されていない登録型の派遣スタッフが1人でもいる場合の事業です。
そして、登録型派遣スタッフは、派遣会社に登録されているだけなので、仕事がない間は、派遣元から給料の支払いはありません。
したがって、生活も非常に不安定になるために、一般労働者派遣事業の場合は、厚生労働大臣の許可が必要となります。
また、特定労働者派遣事業の届出には、財産的用件がないのに対し、一般労働者派遣事業には財産的用件があることも、大きな違いです。
その他、一般労働者派遣事業は許可申請に12万円の収入印紙が必要である点等の違いもあります。
一般労働者派遣事業の許可においても、特定労働者派遣事業においても、定款の目的には「派遣業」を行う旨が記載されていなければなりません。
したがって、定款にその旨が定められていない場合は、定款変更の手続をする必要があります。

人事と労務の違い

人事と労務は、よく混同されますが、正確に申しますとその違いは次のとおりです。
人事の業務としては、主に採用や退職、部署の移動などの企業内における人に関係することです。
例えば、新入社員の面接や退職する場合の届出は一般的に人事部で行われています。また、昇進などがあった場合にも人事部からの発表として行われます。
一方、労務は主に労働環境に関することを行います。いくら給与がもらえるのかといったことや通勤手当が出るかどうか、福利厚生はどうなっているかといったような働く社員にとっては非常に大切な問題を扱うのが労務の仕事になります。
労働組合との話し合いなども労務が行う業務の一つになるのでまさに会社に欠かせない部署だといえます。

昇進と昇格の違い

昇進は役職が何であるとかで指揮命令の上下関係を差します。
つまり主任→係長になる、あるいは係長→課長になる場合などのことです。一方昇格は会社のよっては「何等級」とかいう風に言ったりする,職務遂行能力に合わせた格付けといえます。

整理解雇とは

整理解雇とは、普通解雇の一種で会社の業績が悪化して事業の継続が困難となった企業が、その経営改善などを目的として、余剰人員を整理するために行う解雇(いわゆるリストラ解雇)のことで、法律上は「使用者からの労働契約(雇用契約)の解除」にあたります。
従って、普通解雇や懲戒解雇とは異なり、労働者に帰責事由がありません。
また、整理解雇は、原則、1979年の東京高等裁判所における東洋酸素事件の判例で示された「整理解雇の4要件」を満たしていないと不当解雇とされています
  • (1)人員整理の必要性…人員整理が企業運営上やむを得ない措置であること。
  • (2)整理解雇を選択することの妥当性(または解雇回避努力義務の履行)…整理解雇を回避するための経営努力をしたか否か。
  • (3)被解雇者選定の合理性…客観的かつ合理的な選択基準によるものか否か。
  • (4)手続きの妥当性…人員整理の必要性と内容について労働者に対して誠実な説明を行い、十分な協議を踏まえて納得を得るよう努力をしたか否か。

臨検監督とは

臨検監督とは労働基準監督官による事業所への立ち入り検査のことです。
臨検は、主に次に掲げる4パターンがあります。

1.定期監督

労働局及び労働基準監督署の年度計画(労働行政方針)に基づき実施される検査のことです。主に建設業、運送業、危険有害業務を行なう製造業が対象です。

2.再監督

定期監督で是正勧告などを受けた事業所を対象に、その後の是正措置実施状況を確認する為に行なわれる検査のことです。

3.司法警察監督

是正勧告を受けた事業主がその是正勧告に従わない場合に強権を発動して行なわれる検査のことです。逮捕や送検手続きがとられる場合も有ります。

4.申告監督

労働者の申告に基づき行なわれる検査のことです。
現場を見なければ労働法令違反状態の確認が出来ない場合を除き、事業主に「労働基準監督署への出頭命令」をすることによって行なわれる場合が多いです。

送検とは

送検とは、犯罪者・犯罪容疑者、あるいは捜査記録・証拠物件を警察から検察庁に送ることです。
身柄と書類等を送る場合(身柄送検)と、書類だけを送る場合(書類送検)とがあります。
書類送検は逮捕・勾留されず、一般的には軽い事件で不起訴になることが多いとされています。
しかし全ての事件が不起訴になるわけではなく、中には起訴され、有罪になる場合もあります。
また、有罪になった場合は前科がつくことになります。

固定残業制(定額残業制)

固定残業制(定額残業制)は、残業代がいくらとあらかじめ固定されている賃金体系のことです。
たとえば人を雇うとき会社は採用者に「月給は○○円、手当は××円」と提示しますが、そのときに賃金○○円(ただし、20時間分の残業代を含む)と書いて契約を結ぶ等の方法です。
これにより20時間分は通常の賃金(基本給や手当)で処理できるため、時間外労働が20時間を超えた分についてのみ残業代を支払えばよくなります。
判例では「時間外労働手当を固定額で支払うことは、実際の時間外労働等によって支払われる限り、必ずしも違法ではない」(関西ソニー販売事件、大阪地裁昭63.10.26)とされており、また別の判例でも「基本給に割増賃金が含まれているというためには1.割増賃金にあたる部分が明確に区分されていること2.法所定の割増賃金との差額を支払う旨が合意されていること、が必要である」(国際情報産業事件 東京地裁平3.8.27)とされており、きちんとルールを定めて行えば賃金に割増賃金を含めることは適法であるとされています。
なお、固定残業制導入にあたっては、下記の必要事項が必要となってきます。
●「定額残業制」導入の必要事項
  • 1.賃金(基本給や手当)に含まれる残業代を明確にし、それが何時間分の残業代にあたるのかを就業規則、契約書に明示すること
  • 2.実際の残業が賃金に含まれる時間を超える場合は、その差額を支払うことを就業規則、契約書に明示すること
  • 3.在籍している社員にとっては不利益な変更となるため個々に合意を得ること
  • 4.賃金台帳に固定残業代として計算された金額がいくらなのかを記載すること
  • 5.基本給が最低賃金を下回らないこと
  • 6.退職金の計算が基本給を基礎としている場合、退職金の計算を「(基本給+固定残業代)×勤続年数」にするなど対処すること
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